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第五話 魔術師の執着

Penulis: 紡里
last update Tanggal publikasi: 2026-07-26 13:11:23

僕は、イロナとの見合いの席で、自分がどれほど優秀な魔術師なのかを存分にアピールしていた。

魔術関係以外で、初めて欲しいと思った相手だ。

どうにかして、彼女に僕を認めてもらいたい。

だが、お相手の彼女は、なかなか手厳しい。

「犯罪者になったマールトンからまきあげた魔道具を、フル活用しているだけじゃない」

「いやいや。あの家は代々、あれだけの魔道具を持っていながら活かせなかったんだ。どう使うかも、才能のうちさ」

「図々しいわ」

憎まれ口を叩きながらも、彼女はカーヒーコーヒーを注いでくれる。

今日のお菓子はチョコレートだ。

ポピーシードが乗っているものもあれば、サワーチェリーが入っているものもある。

甘くてほろ苦い。

異なる刺激が、代わる代わる舌と鼻を楽しませてくれる。

――まるで、君のようだ。

ツンとすました顔に隠した優しさと、素直で豊かな表情に、僕の頬が緩む。

出会った頃の彼女は親友に毒を盛られ、婚約者に裏切られたショックで、まるで仮面をつけているような顔をしていた。

それが少しずつ柔らかさを取り戻していく。

その様子は、魔術の素材がゆっくり変質していくのを、見守る時間を思い出させた。

急かしてはいけない。

けれど、変化を見逃してもいけない。

イロナが本来の自分を取り戻していく過程を、ずっと眺めていたいと思った。

彼女は確かに、少々口うるさい。

だが、それは目端が利いて、いろいろなことに気がついてしまうからだ。

食事を抜けば叱られ、無理をすれば文句を言われる。

そんなときに「ありがとう」と返せば、ほんのり頬を染めて「しっかりなさって」と少し照れるのだ。

ちょっとした言葉に腹を立てるような、器の小さい人間は、彼女の前から消え去ればいい。

僕は、彼女に「仕方のない人」と言われるのが、案外好きなのだから。

何度、時を巻き戻ろうと、思考の癖を変えなければ、同じ失敗を繰り返す。

彼の一族、ヘーデルヴァーリの血を垂らし、その血の持ち主の寿命を使って時を巻き戻す魔道具。

その説明を書いた古文書が読めないマールトンは、路地裏の小さな魔道具店に泣きついてきた。

巻き戻ったあとに、僕がその知識を利用してうまく立ち回るなんて、想像もしなかったのだろう。

平民の魔術師など、ただ利用するだけの存在だとでも思っていたのか。

――浅はかな男だ。

一族の中には、古文書を読める者もいるだろう。

時戻りの魔道具に詳しい者だって、いたかもしれない。

それなのに、怒られたくない、苦労せずにいい人生を送りたい――そんな浅ましい気持ちで、外部の人間である僕に、家宝の秘密をぺらぺらとしゃべる。

自分が何を差し出しているのかも、理解せずに。

そんな歴史も家宝もない僕にとって、喉から手が出るほど欲しい物だとは、考えもしなかったのか。

生まれたときから恵まれていた者の傲慢さだ。

人の顔色をうかがわなくても生きて来られたせいで、危機感がない。

使われる側にも心がある。考える頭がある。

ただ、黙って従うだけの人形ではないのだ。

実は、時を巻き戻す準備をしているときに、僕はマールトンの血液を多めに採取しておいた。

巻き戻る直前、収納魔法の空間に、奴の血液を入れた瓶を保管した。

そして、巻き戻ったあと。

恐る恐る空間を調べたら――あった。

ちゃんとその瓶が見つかったのだ。

見つけた瞬間、嬉しさのあまり踊り出したくなった。

これで、あの魔道具は僕の物だ!

この血がある限り、研究できる。

思わず笑みがこぼれた。

イロナの協力でヘーデルヴァーリ家が手薄になる日を知った僕は、その隙を狙って忍び込み、時戻りの魔道具をいただいた。

魔道具の宝物庫も奴の血で解除できたから、ことは驚くほどスムーズに運んだ。

一回目のときに、マールトンが僕の目の前で、無防備にも解錠していたからだ。

決して、魔道具が欲しいという理由だけで動いたのではない。

時を戻したことが露見したら、魔道具に残る痕跡から僕に辿りつかれる可能性がある。あんな男と一蓮托生なんて、冗談じゃない。

だから魔道具は僕が管理することにした。

そして、殺人計画が実行された日。

僕は騎士を連れて、カタリン・ヴァッシュの家へ向かった。

そこまで騎士立ちから信用を得られたのは、その前に何度か「予言」をし、事件の解決を手伝っていたからだ。

前回の記憶があるから、「いつごろ、どんな事件が起きて、犯人は誰か」がわかる。

それを少しばかり利用して、騎士たちに助言をした。

彼らは、僕の「ちょっと気になるんだけど」という話を無視できなくなっていく。

そして事件当日は、非番の騎士たちが一緒に馬車に隠れて待機してくれた。

もし事件が起こらず、現行犯逮捕もできなかった場合は、僕が彼らに一杯奢る――そんな約束をした。

僕は戻ってから一か月の間、そうやって様々な仕込みをして、あの日に備えた。

その間、イロナは僕に会う度に、警戒を緩めていった。

警戒心の強い猫が懐いてくる過程を見るようで、僕はわくわくした。

そのうち僕の顔色が悪いと、野菜たっぷりのパプリカのスープを飲まされるようになった。

「チョコレートのトルタケーキに野菜スープは合わないんじゃないかなぁ?」

「では、最近の食生活を述べよ」

「……いただきます」

反論する余地が無い。

「スープを食べ終わったら、カーヒーコーヒーを淹れてあげますわ」

飲み終わったら――ではない。······らだ。

具がたっぷり入った、栄養満点の一皿。

普段の僕の食事なら、これだけで一日分に匹敵する。

くつくつと、喉の奥から笑いがこみあげる。

世話焼きで、お人好し。

これは利用されて、騙されるタイプだな。

いや、すでにマールトンたちに騙された実績があるか。

半分ほど食べたところで音を上げると、イロナは「胃が小さすぎる」と文句を言いながらも解放してくれた。

無理を押しつけるようなことはしないんだ。

デザートは別腹なのか、チョコトルタは完食した。

前回、僕は事件の当事者ではなかった。

だからゴシップ誌で「婚約者への当てつけに自殺」という記事を読んだだけ。そのときは、「強烈な女もいたもんだ」と思った。

だが、巻き戻ってイロナ本人に尋ねたら、力いっぱい否定するではないか。

浮気女カタリンが口を滑らせたとおり、毒殺だった。

理不尽だと思った。死人に口なしか。

なんだか腹が立った。

僕は毒殺を阻止すると決意し、対抗策を考えるのに一層力を入れた。

巻き戻る前の僕が知っていたのは、新聞やゴシップ誌に載った情報だけだ。

それから、巻き戻る直前にマールトンから聞いた話。これがまた、あやふやで適当で、まったく信用できない。

だから、巻き戻ってからは、自分で情報を集めた。顔見知りの治安担当の騎士に話を聞いたり、学園の魔術担当の教員に魔道具を売り込みに行くついでに、それとなく探ったりした。

そうやって集めた情報をイロナと共有し、二人で作戦を立てた。

一方で、マールトンは、戻ってから何をしていたんだろう。

イロナに話を聞いてみると、以前は無視していた彼女に「やあ」と挨拶するようになったくらいだと……。

イロナが、前回のように愛想笑いをしなくなっても、不審に思っていない様子だという。

それどころか、次第に虫けらを見るような目になっていることにも気付いていないらしい。

「無関心にも程があるわ」

少し傷ついた様子で、イロナはため息を吐いていた。

憂いを帯びたその表情も、なかなか魅力的だった。

そして、ついに――カタリンが仕掛けてきた毒殺を未然に防ぎ、マールトンに一泡吹かせてやった。

イロナと共闘したのは一か月。

たった一か月なのに、とても濃い日々だった。

それで関係が終わってしまうが……惜しいと思ってしまった。

できることなら、この先もずっと――

そんなふうに願ってしまうくらい、僕はイロナとの時間を気に入っていた。

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